表現のつまみ食い

表現のおいしいところをつまみ食いするエッセイです。

原点とはなにか

 アニメ「色づく世界の明日から」の舞台である長崎。アニメ放映前に訪れたことがあり、舞台と知ったとき不思議と親近感があった。

 そんな長崎は開国の街でもあり、写真発祥の地でもある。開国したばかりだったこの街には外国人が多く、当時は日本にいなかった写真師も訪れていた。そのことが日本の写真文化を発展していき、日本の写真師が誕生することにも繋がった。まさに日本の写真文化の原点であろう。

 そんなことを昨年の春に、東京都写真美術館で開催されていた「写真発祥地の原風景 長崎」で知ることとなった。都内には多くの写真展が入れ替わるように行われているが、この企画を訪れたきっかけは長崎であろう。一度訪れただけだが、どうもこの場所は忘れられなかったかもしれない。

 この企画では主に長崎の風景写真と人物写真が中心で、時代は開国したばかりの幕末から明治期にかけてとなっている。古典写真はいくつか見ていたが、この時代ははじめてだった。ただここまで古いと構図や思想も変化しているだろうと考えていた。技術は常に進化していて、それに伴う価値観も大きく変わる。そのせいか、得るものは少ないと思わせていた。

 ただそんな想像とは全く違った感触だった。小さくて、古いながらもその一枚一枚はどれも美しかった。当たり前の構図で在り来たりなものではあるが、それが自然と身近な思想と感じた。技術は進化していて今とは異なるものがあるが、その中には変わらないものがあるかもしれない。そのことがどこかより親しく思えた。

 まるで過去の風景に立ち会っているようだった。見たこともない景色や会うこともない人たちがより親しく感じて、長崎に対する印象が旅行のときより深いものとなった。無我夢中でつぎの写真を探していたが、鑑賞という感覚を不思議と失っていた。

 終わってみると今までとは異なる写真が見つかったようだった。当たり前故の美しさにはどのような効果があり、古典が残っている意味は何か。そう問い直してくれる機会となり、今でも忘れられない企画展となった。