表現のつまみ食い

表現のおいしいところをつまみ食いするエッセイです。

四月は君の嘘第1巻

久しぶりに漫画を手にしてみた。漫画にも興味を持つがアニメの高評価だった作品を選んでいる。年4シーズンが目まぐるしく変化するアニメ作品だが漫画の購入は決まって年1作か2作程度にとどまっている。

漫画を買うとアニメとの違いが気になる。これは無理もないがアニメでしか表現出来ないこともあれば、原作の方が良かった表現もある。このお互いの良い部分があるからこそ作品が成り立っていると思う。そしてそんな原作に出会えた時の喜びはとても大きなものである。

 

 

最近読んだ漫画で特に気になったの新川直司作「四月は君の嘘」である。原作は既に完結済みで2014年にアニメ化された。全22話放送で漫画同様完結するストーリーだった。特に原作を忠実に再現することにこだわりが強く、その影響で原作を全て購入した。

物語は主人公有馬公生がある日ピアノが弾けなくなることから始まる。中学生になった彼は次第に音楽から遠のくような日々を送ろうとしていた。そんな彼の前に現れたヴァイオリニスト宮園かをりとの出会いをきっかけに物語がはじまる。

第1巻ではかをりがコンクールでヴァイオリンを演奏するシーンがある。緊張していた演奏者と入れ替わるように舞台入りした彼女だが、その表情は真剣そのものだった。演奏前の愉快だったのが嘘のように中学生ながら真剣な大人の顔そのものだった。

しかし、そんな真剣さとは裏腹に厳正なコンクールでありながら楽譜の指示を無視するかのような演奏だった。颯爽と演奏する勢いに乗るような描写、観客もくぎ付けになるような表情。自分らしい演奏を行いながらもその流れる演奏風景が只者ではないことが窺えた。課題曲の名前や演奏された楽曲は全く知らない。でも異様な会場の雰囲気を体験するような描写が次々と出て来た。

気が付けば数ページが流れるようにして終わった。あっという間に終わった演奏に拍手を贈りたくなるような雰囲気になっていた。変わった演奏を行った彼女は更に変わった一面を見せた。楽譜を無視する自分らしい演奏を貫いたあと、コンクールの採点や順位には興味が無く会場をあとにした。どうしてコンクールに出たのかは疑問だが、演奏を心から楽しむ表情を見ているとその理由を探すことがどうでも良くなってきた。

 

 

この一連の流れが原作に出会えた喜びだと思う。漫画はアニメと違い、動作や音声が全くない。その為静止画でどこに表現の重点を置くかによって良し悪しが決まって来る。今回かをりの演奏は勢いの描写や観客の表情など感覚的な部分を重視して描いていた。この感覚的な表現を重視することで楽曲が無くても会場の雰囲気は伝わってきた。動いたり、喋ったりするアニメも好きだがたまに触れる漫画もまた違った楽しさがあって興味深い。

写真という静止画で表現する1人としては目を見張るものがある。写真も音や動きを表現することが出来ないので漫画の世界とどこか似ている。

 

 

『四月は君の嘘(1)』,講談社コミックス月刊マガジン

四月は君の嘘 - Wikipedia, 2018年8月13日アクセス