表現のつまみ食い

表現のおいしいところをつまみ食いするエッセイです。

打ちあがったものは何だったのか(アニメ映画「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」)

 想い出を取り返したい。そんな意味を込めているのか、夏作品は後悔を取り返す作品が多い。「時をかける少女」はタイムリープを使い何度も何度も夏をやり直す、「君の名は」では夏の後悔を取り返そうと主人公が必死に行動する。

 「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」も主人公「典道」の後悔を払拭し、ヒロイン「なずな」を救おうする「タイムリープ」ものだ。

 

原作は「世にも奇妙な物語」の後番組

 夏休みの登校日に典道はある賭け事をする。その勝敗で典道だけでなく、ヒロイン「なずな」にも関係し始め、結果としては悔やまれる結果となってしまった。もしあのとき典道が勝っていれば、なずなはどうなったのか。その後悔を確かめるように彼は再び分岐点である賭け事を始める場面に出会す。この勝敗で大きく変化するのだろうか、その真実を典道は追求し始めるが、果たして彼女の運命はどう変わっていくのか。

 原作はフジテレビドラマで、「世にも奇妙な物語」の後番組「もしも…if」で放送されていた。とは言っても語りはタモリさんと奇妙な物語と変わりがなく、弟分のような番組だ。アニメ映画との一致点が多く、タイトルもちろん、挿入歌もリメイク版にしては変わらない曲が登場した。フジテレビがスポンサーなのも納得する。

 

ドラマメイクが安全だったのでは?

 ただなんというか、アニメでやる必要あったのか?と聞かれると、微妙な反応を示す。

 広瀬さんや菅田さんのダブルキャストで話題性があろうが、声の芝居がイマイチだった。例えば典道は原作より年齢を1年年上の中学生に変わった。ただ声を聞くと少々野太く高校生ぐらいに聞こえてくる。別にアニメが好きで俳優陣を嫌うつもりは全くない。むしろ菅田さんに関しては声の芝居より、「アルキメデスの大戦」の櫂直(かいただし)など実写を称賛するほどだ。

 またストーリーも終始モヤモヤする。明確な目標もよくわからず、ただ物語が進んではやり直し、進んではやり直しを繰り返す。おまけに原作よりも2倍に延びた尺を過剰な水増しで誤魔化していて、結局時間差で気がついたクライマックスが評価をさらに下げた。

 いっそリメイクドラマとして菅田さんと広瀬さんが主演しても差し障りはなかったと思う。それが駄目でも、せめて最後のモヤモヤをタモリさんが振り返るように締めて欲しかった。

 

シャフトが手掛ける表現

 アニメリメイクの利点は何か。その答えはアニメならではの表現にある。制作会社は西尾維新の「物語シリーズ」や「ひだまりスケッチ」を手掛けたシャフトが主体だ。「物語シリーズ」では感情ごとに表現をコロコロ変え、物語の起伏をつけるためにオーバな表現で、終始楽しませてくれた。また高校生らしい幼さを残しつつ美しさが印象深い戦場ヶ原ひたぎを中心とした個性的なヒロインも魅力的だった。

 そんな定評がある表現とヒロインが映画にも継承されている。なずなも原作より大人びて、戦場ヶ原ひたぎに酷似してようだ。そのせいか中学生にしては大人っぽいが、この大人の風格が後々必要になるので多目に見て欲しい。またドラマではなずなの顔に乗った蟻だが、アニメでは夏らしくトンボに変わった。他にも彩色豊かな花火のシーンや夕方の静寂な海を走る電車など、リアリティを追求するよりも見栄えを重視し、表現に定評がある制作会社だかこその抜群な描写だった。

 

打ち上がったものは一体

 シャフトが得意とするアニメ表現は秀逸で、文句はなく、綺麗打ち上がったようにも思えた。ただ好評はそこだけで、欠点が足かせとなり打ち上げシーンだけが綺麗で終わった。結果として不発玉となって美しく散ることができなかった。