表現のつまみ食い

表現のおいしいところをつまみ食いするエッセイです。

閉じ込んでいたのは少女だけではない(色づく世界の明日から)

魔法は一種の才能である。さらに付け加えると物語では、魔法使いが特別扱いになることがなく、絵を描いたりするのと同じことが多い。

例えばジブリ作品の「魔女の宅急便」。魔女のキキは箒で空を飛べるが、街の人たちはどういう様子だっただろうか。

今まで魔法は、現実とはかけ離れた存在と思っていた。でもそういう世界を知ってしまうと、物語が少し身近になってくるようだ。

魔法が他の才能と同列で扱われているのは、アニメ「色づく世界の明日から」でも同じだ。そして時には魔法が誰かのためになったりもする。

 

 

「色づく世界の明日から」の主人公 月白瞳美(以下、瞳美)は引っ込み思案な少女である。自分の才能である魔法が、親しい人を傷つけてしまい、それが多数の人間にも傷つけると思っていた。そういうことがあるせいか、消極的になり、魔法が大嫌いになっていた。

それだけではなかった。魔法が嫌いなことが影響しているのか、彼女が見える世界がすべてモノクロになっていた。色も失い、日々も灰色のようになっていった。

そんなモノクロの世界に、ある転機が訪れる。それは物語だけでなく、瞳美も前へ進もうとする。

 

祖母の魔法で過去に飛ばされた瞳美。「行けばわかる」と曖昧な助言だけを貰い、着いた先は祖母が高校生の頃だった。

右も左もわからなく不安だった。そんな中、ある絵と出会った。それは見えないはずの色が彼女にも見えていたのだ。

不思議だった。見える世界がモノクロで、いつから色が見えていたのかも忘れていた。色への興味もなく、このままでも支障がないとも思っていた。

でもその謎が気になっていた。何故色が見えたのか、そして色への興味が少し湧いてきた。興味本位でその絵の作者 葵唯翔(以下、唯翔)に迫ることにした。

ただ唯翔は見せたくなかった。幼少期にコンテストで入賞して、親戚とかに喜んでいたりもした。そして気がつけば絵を描くことが好きだった。でも彼も引っ込み思案なのか、人に見せることは好ましくなかった。

でも彼女は絵が見たかった。そして今までは考えられない、とっさの行動を取った。嫌いで不本意だったが、瞳美は魔法を使うことにした。

大した力もなく、ささいな魔法でその場をやり過ごした。大勢が見られ、大した魔法と言われたりもして、彼女にとってはとても恥ずかしく思った。そしてますます魔法が嫌いになった。

 

「また見せてよ、魔法。(中略)俺の絵なんかより凄いって、絶対に」

唯翔からこんな助言を貰った。そして今まで他人を傷つけることしか出来ないと思っていた自分の才能が、誰かの役に立つことを知った。

そして行動し始めた。もっと魔法が使えるようになって、もっと見て欲しい。気がつけば誰かのために行動し始めていた。

 

自分のささいな才能でも人に見せる重要性を感じた。ときには傷つけてしまうこともあるが、喜ばせることだって出来たりもする。その喜んで貰った瞬間が自信に繋がり、いつしか原動力になるかもしれない。

そのことが原動力になっていたのは、瞳美だけではなかったりもする。