表現のつまみ食い

表現のおいしいところをつまみ食いするエッセイです。

長距離選手の褒め言葉(風が強く吹いている)

 「走。長距離選手に対する一番の褒め言葉、分かるか?」

 蔵原走(以下、カケル)に語りかける清瀬灰二(以下、ハイジ)。何気ない会話だったが、このシーンが1番記憶に残っている。

 答えは「早さ」かと思った。最近は監督の指導方針といった技術的な面を多く紹介されている。なので技術を取り入れた「早さ」が答えだろうと思った。

 ただハイジの答えは意外だった。

 「いや、『強い』だ!」

 

 アニメ「風が強く吹いている」は昨年秋から放送されている。カケルやハイジを含む10人だけで箱根駅伝を目指す物語となっている。

 陸上競技を経験したことがない素人が大半で、当初は反対する者が多かった。特に陸上部に所属していたカケルはその過酷さを知っており、提案したハイジに猛反発していたのも懐かしい。

 ただ関わっていくうちに、皆箱根を目指すようになっていた。欠けることの出来ないチームだが、その頂きを目指して挑戦していく。

 

 「早さだけで長い距離を戦い抜くことはできない。苦しい局面でも粘って身体を前に運び続ける。どんな日も、自分をもうひとつ先まで追い込むトレーニングをする。長距離選手に必要なのは強さだ」

 「だから焦らなくていい、自分を信じろ。強くなるには、時間が掛かる」

 いくら技術が優れていても、それに見合う精神力というものがないと活用できない。長距離、特に駅伝となるとチームメイトそれぞれの状況が精神にも大きく左右されることがあり、とても安定した状態とはいえない。むしろ完璧な状態で走れることのほうが珍しいだろう。

 ただどんな状況下に立たされていても走らなくてはならない。順位が落ちて気を落とすとあっという間にやられてしまうのだと思う。それが長い距離を個人だけでなく、チームで戦い抜く本当の強さであろう。

 

 そんなことを今年の箱根駅伝で思い出す。王者青山学院大学はペースが上がらず、往路は6位という結果で終えた。もうこのまま終わってしまうのか、そういう空気になっていた。

 しかし、選手たちは諦めることはなかった。結果、総合優勝は逃してしまったものの、総合2位、復路1位を獲得した。

 王者から陥落したものの総合2位になれた。あの褒め言葉である「強さ」はまさにそのことではないだろうか。