表現のつまみ食い

表現のおいしいところをつまみ食いするエッセイです。

最後の隠れ寿司

 「ちらし寿司も凄いんだよ」。以前訪れたお寿司屋には、ちらし寿司も取り扱っているようだ。そちらも気になり、店仕舞いする前にまた訪れた。

 

 「12時に来てください。その前に来ても何も出せませんから」

 今回は予約を入れてみた。変わらぬ注意を聞き入れが、少し早めに到着した。その頃、お店は準備中だった。店主はネタの仕込み、女将は電話対応と少々慌ただしいかった。

 前回は狭いカウンターであったが、今回は座敷へ案内された。白いテーブルクロスの上にビニールのマット、入口とは反対側にはテレビが置いてあった。なんだか民宿のような雰囲気だった。それがカウンターとは違った、どこか安心感があった。

 今回はもう一つの看板メニューである、特上ちらしを頼んだ。以前の握りよりも多いネタが豊富に盛られていた。大きなネタは握りと変わらず、そのせいでご飯は全く見えなかった。

 大きな海老、脂控えめのさっぱりサーモン、そしてとろけるトロ。どれもサイズが大きくいつまでも口に広がっていた。魚市場で出される海鮮丼を食べている気分で、とても満足していた。

 これで終わりなのか。そう思いご飯を掘り起こそうとしたら、何かご飯ではない色が隠れている。この茶色はかんぴょうか。そしてこの桃色は桜でんぶか。

 ネタで彩り豊富かと思ったら、その下にも彩りが隠れていた。以前は握りの盛り付けだったが、今回は隠れた彩色にまた驚かされた。

 

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特上ちらし

 

 そろそろ帰るか。そんなとき、急に女将さんが現れた。何をはじめるかと思えば、カメラを持ち始めて我々を撮っていた。最後なのでと言ってすぐ撮って、すぐあとにした。この隠れた名店もこれで最後なのか。